フィリップ・K・ディック〈Philip K. Dick


長篇


『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』DO ANDROIDS DREAM OF ELECTRIC SHEEP ?〈ハヤカワSF229

 訳:浅倉久志/カバー:中西信行(初版)・映画スチル(四版)/発行:1977315

第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では、生きている動物を所有することが地位の象徴となっていた。人工の電気羊しかもっていないエリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた「奴隷」アンドロイド8人の首に賭けられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた! 現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致を用いて描きあげためくるめく白昼夢の世界!〔映画化名『ブレードランナー』〕

 

『偶然世界』SOLAR LOTTERY〈ハヤカワSF241

 訳:小尾芙佐/カバー:渡部 隆/発行:1977515

執政庁の最高権力者ベリックが失脚した! しかし、彼に失策があったわけではない。ボトルと呼ばれる権力転位装置の無作為的な働きがそれを決定したのだ。かわって選ばれたのは無級者のカートライト――ボトルの抽選により、こんどは彼が60億の人々の中から選ばれたのである。だが無級者にとっては、この幸運は同時に凶運でもあった。なぜなら、無級者の手から権力をもぎとらんと刺客がさしむけられ、彼らは執政庁へと……。一見アクション・スリラー風のプロットを土台に、現代物質世界の背後に隠れた真実を鋭く描きだした鬼才ディックの処女長篇!(『太陽クイズ』改題)

  

『時は乱れて』THE OUT OF JOINT〈サンリオSF文庫3−A

 訳:山田和子/カバー:滝野晴夫/発行:1978725

男の名はレイグル・ガム。独身、46歳。アメリカの一地方都市で、この男のことを知らぬものはいない。新聞の懸賞クイズ『小さな緑の男は次にどこへ行くか?』に毎日毎日勝ちつづけている男なのだ。時は、1959年。だが、ある日、レイグルは自分が、なじみのない他人に思えることがある。そして同居してしいる弟夫婦も。たとえばある時、洗面所であると思ったスイッチがないという弟の体験、子供が近くの廃墟から拾ってきた雑誌の記事、鉱石ラジオから傍受した奇妙な通信、ついに町を出ようとしたレイグルは、なぜか警察に追われ、一軒の家にたどりつく。そこで見た新間の日付は1997年5月10日、なんと彼レイグルに関する記事が載っていたのだ。卓抜なアイデアと巧妙なトリックで構成されたストーリーは、やがて壮大な宇宙ドラマへと突入する。米国SF界の巨匠が放つスリリングな世界。

 

『死の迷宮』A MAZE OF DEATH〈サンリオSF文庫3−B〉

 訳:飯田隆昭/カバー:ロウェーナ・モリル/発行:1979515

14人の男女――コンピューター技師、神学者、娼婦、海洋生物学者、医師など――が転任願いがかなえられて植民地惑星デルマクー〇に到着した。だが通信器が故障し――故意に破壊された疑いがある――そこでの任務を知るすべがない。また小型宇宙艇に乗ってきたため戻ることもできない。一方、ここには彼らを監視する人工昆虫が放たれ、テンチと呼ばれる未来を予言し、様々な複製品を産み生物が生息し、巨大な動く建物が現れる。そのうち一人が何者かに殺され、相互不信と偏見によって反目が生じるうちに次々と犠牲者が出る。宇宙の聖典ともいうべき『ザ・ブック』に登場する三つの善良な神と一つの邪悪な神の謀略か? 地球の総統トリートンから派遣された殺人者が彼らの間に隠れているのか? それても……そして遂には奇怪さを深める死の迷宮からの出口が発見できぬまま、残された人びとは自分が誰なのかさえ疑わしくなってくるのだった。

 

『死の迷路』A MAZE OF DEATH〈創元SF文庫699-03

 訳:山形浩生/カバー:松林富久治/発行:19891215

目的も知らされぬまま、植民惑星デルマク・Oに送り込まれた14人の男女。彼らに使命を告げるはずだった衛星からの通信は、故意か偶然か、メッセージを受信しているさなかに途切れてしまう。異常事態はそれだけにとどまらなかった。一人また一人と、メンバーが殺されはじめたのだ。この14人のなかに殺人鬼がいるというのか? 謎めいた立方体の建造物がそびえ、物質をコピーする奇妙な生き物が徘徊するデルマク・O。この惑星に閉じ込められたまま、彼らは狂気にむしばまれてゆくのだろうか。P・K・ディックがつむぐ、逃げ道のない悪夢世界。

 

『火星のタイム・スリップ』MARTIAN TIME-SLIP〈ハヤカワSF396

 訳:小尾芙佐/カバー:中西信行(初版)・渡部 隆/発行:1980630

たえず水不足に悩む不毛の地、火星植民地に住む人々は、国連から配給された水を頼りに細々と暮らしていた。しかし、水利労組組合長アーニイ・コットは、その貴重な水を思うままに使えるほどの絶大な権力を握っていた。だが、国連の大規模な火星再開発にともなう投機で地球の投機家に先を越されてしまった彼は、ある途方もない計画をもくろむ――時間に対する特殊能力を持っている分裂病の少年を使い、過去を改変しようというのだ。ところが、コットが試みたタイム・トリップには、怖るべき陥穽が……!? アメリカSF界の鬼才ディッグがなまなましく描く、異形の悪夢世界。

 

『暗闇のスキャナー』A SCANNER DARKLY〈サンリオSF文庫3−C〉

 訳:飯田隆昭/カバー:中西信行/発行:198075

プラスチックハウスが林立するカリフォルニアのファシスト警察国家には麻薬が猖獗を極めていた。特に脳を破壊する物質Dの供給元をたどるため当局はフレッドという捜査官に売人アークターの監視を命じた。彼はそのつどあらゆる人間の断片の組み合わせに変わるためおぼろな姿に見えるスクランブルスーツを着て、アークターの家や車に監視装置をしかける一方、供給元を突き止めるため愛人のドナからヤクを買うことにした。売人たちも逮捕を逃れようと監視テープを改竄し、徹底した逆捜査をし、ときに捜査官にヤクを仕込んだりするのだ。やがて彼も中毒患者となるが、アークターも密告で当局に消されそうになる。だが、実はアークターとはフレッドであり、それを知っているのは彼だけなのだ。また、供給元が一度も摘発されたことがないのは公的な庇護を受けているかららしいのだ。狡猾に仕掛けられた虎鋏のように強力なディックの知的挑戦をお楽しみ下さい!!

 

『流れよわが涙、と警官は言った』FLOW MY TEARS, THE POLYCEMAN SAID〈サンリオSF文庫3−D〉

 訳:友枝康子/カバー:中西信行/発行:19811230

それは、まったく不意だった。子飼いの歌手志望マリリンが、彼を恨んでゼラチン状のカリスト海綿生物を投げつけたのだ。彼の胸に50本の触手が食い込んだのをスコッチを浴びせて殺したものの、何本かが体内に残ってしまったのだ。失神、そして病院へ。ところがある朝、目ざめてみると安ホテルの不潔なベッドだった。胸から触手は消えていた。それだけではない。3000万人のファンをもつTVアイドル歌手である彼タヴァナーは、身分証明書もなく、世界中どこにもデータのない男になっていたのである。1984年、警察国家アメリカのどこにも彼は存在していない、ということになるのだ。だが、これはまだ悪夢の始まりでしかなかった。ロサンゼルス警察は、彼が自分で自分のデータを消したと疑って二十四時間監視をはじめたのだ。洗練された構成力と強烈な想像力で兇暴でぞっとするような近未来を描いたディックの傑作中の傑作。

 

『流れよわが涙、と警官は言った』FLOW MY TEARS, THE POLYCEMAN SAID〈ハヤカワSF807

 訳:友枝康子/カバー:上原 徹/発行:1989215

三千万の視聴者から愛されるマルチタレントのタヴァナーは、ある朝見知らぬ安ホテルで目覚めた。やがて恐るべき事実が判明した。身分証明書もなくなり、世界の誰も自分のことを覚えていない。そればかりか、国家のデータバンクからも彼に関する記録が消失していたのだ! “存在しない男”となったタヴァナーは、警察から追われながら悪夢の突破口を必死に捜し求める……現実の裏に潜む不条理を描く鬼才最大の問題作!

  

『怒りの神』DEUS IRAE〈サンリオSF文庫3G

 共著:ロジャー・ゼラズニイ

 訳:仁賀克雄/カバー:ジャニー・ワーツ/発行:1982925

第三次大戦で地球は全滅した。人々が奇妙な逆説を信仰したためだった。エネルギー調査開発庁長官カールトン・ルフトオイフェルは数字の詐術を巧妙に使った演説で人々を説得したのだ。国家の機能は一定の生存者がなければ維持されないというのは嘘だ。マイクロ化されたデータのカプセルが安全に貯蔵されていれば愛国的思考形態は残っていく。1983年の演説で彼はそう主張した。そして5000マイル上空の人工衛星から、偉大な無差別爆弾=怒りの神を爆発させた。今、手足のない画家ティボール・マクマスターズは第三次大戦の背後に隠れている神ルフトオイフェルを求めて全滅したあと恐ろしい突然変異体たちの跋扈する異邦の地を二輪車を牛に引かせて旅していた。あの悪魔でもあり神でもあるルフトオイフェルの肖像画を描くよう教会から依頼されたのだ。それを妨害しようとする追跡者……すさまじくも暴力的なディック&ゼラズニイの驚嘆すべき記念碑。 

 

『ヴァリス』VALIS〈サンリオSF文庫3−E〉

 訳:大瀧啓祐/カバー:藤野一友/発行:1982515

大ソヴィエト事典1992年度第6版によれば、VALISとはVast Active Living Intelligence System(巨大にして能動的な生ける情報システム)。自発的な自動追跡をする負のエントロピーの渦動が形成され、自らの環境を斬進的に包含し、かつ情報の配置に編入する、現実場における、摂動。擬似意識、意志、知性、成長、環動的首尾一貫性を特徴とする、という。さてVALISとはさらに発狂した神の仕掛けた迷宮によるひっぱるほどに締めつけるフィンガートラップであり、混乱と腐敗を増していく宇宙創成論であり、つまり実り豊かな終末論であり、カバラ、ドラッグ、魔術師シモン、狂気、光と闇の弁証法、パラケルスス、ヘルメス学、そしてなによりも神に酔える哲人スピノザによる、神の唯一の啓示である神は存在しないというソフィア、つまり新グノーシス主義による無神学大全VALIS、さらに幽明の境を越えて不死の人となったディックその人の生誕を告げる遺書である。合掌。

 

『ヴァリス』VALIS〈創元SF文庫699-05

 訳:大瀧啓祐/カバー:藤野一友/発行:1990622

ホースラヴァー・ファットは、女友達グロリアの自殺を止められなかった。その日から、ファットは狂いはじめた。麻薬におぽれ、彼もまた自殺を試みるが失敗する。だが、ファットは神に出会った。ピンク色の光線を照射し、彼の頭に情報を送りこんできたのだ。ファットは、自分だけの日誌――秘密教典を記しはじめる。彼は、ふたつの異なる時空間に生きていた。古代ローマと1974年のカリフォルニアに……。そしてある日、ファットはSF映画『ヴァリス』に出会う。映画のなかには、彼が出会ったピンク色の光線や、幻覚と符合する徴があった……。P・K・ディック晩年の、最大の話題作。

  

『聖なる侵入』THE DIVINE INVASION〈サンリオSF文庫3−F

 訳:大瀧啓祐/カバー:藤野一友/発行:1982715

カトリック教会と共産党が手をとりあって支配している邪悪な地球へ、聖なるものの侵入が謀られていた。アシャーという男が、妻リビスの多発硬化症を治療するためにCY30CY30B星系から地球へ帰還しようとしていたのだ。ところが、リビスの胎内には、かつて地球から追放された神格ヤーウェの子が、非人類との性交によって孕まれた神の子が宿っていた。それに対して大修道院長と行政長官は、地球の瀬戸際でかれらを抹殺しようとしていた。こうして悪魔となった神と神となった悪魔の、光の子と闇の子との熾烈壮麗なエントロピーの零度であるアルマゲドンへと、フィジカルに、さらにメタフィジカルに突入していくのだ。が……本書は正確に言って『ヴアリス』の続きではない。巨大にして能動的な生ける情報システムであるVALISにイン・プットされたディック神学を物語へと変換していった『ヴァリス』そのものの再話であろう。